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認知症の家族がいる場合の遺産相続について

山下江法律事務所

 「認知症」とは、脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態をいいます。この認知症を患うと、記憶に障害 が起きたり、周囲の人のことがわからなくなったり、判断能力が著しく低下したりします。また、日常生活が送りづらく(あるいは送れなく)なり、徘徊や排せつ行為に問題が出てくることもあります。

 認知症の進行を遅らせたり、症状を軽減したりする方法や薬は存在します。しかし認知症を完治させることは難しいと考えられています。このため、家族はこれを受け入れ、正しい接し方をしなければなりません。

 認知症は高齢者によく現れます。認知症を患った状態で亡くなる人もいれば、認知症になった状態でパートナーに取り残される人もいます。
 今回は「認知症と遺産相続」の関係に注目して、
・認知症を患った人が亡くなった場合の遺産相続
・認知症を患っている人が遺産相続人に含まれている場合の遺産相続
の2つの観点から解説していきます。また、「認知症を患う前にできること」についても解説します。

亡くなった人が認知症の場合、遺言書の内容で争いが起きることも

 遺産相続に向けて、「遺言書」をしたためる人は多いといえます。遺言書をしたためておけば、(遺留分を除き)財産を自分の希望に従って分けることができます。

 認知症を患っている人が書いた遺言書であっても、それが「無効になる条件」を満たしておらず、また正しい手順で書かれているのであれば遺言書として認められます。

 たとえば、「軽度の認知症を患っていたが、遺言書の内容は理解していた」「成年後見人(認知症などを患い、判断力が低下した成人の財産を守るためにいる人のこと。家庭裁判所によって選ばれる)がついているが、遺言作成時に判断能力があり、医師2人以上の立ち合いがある」などの場合、作られた遺言書は効力を発揮します。

 ただ、以下のようなケースでは遺言書が無効となります。

  1. 意思能力が失われるほどに、認知症が進んだ状態であった(寝たきりであり、まったく意思の疎通ができない状態など)
  2. 公序良俗に反する内容の場合
  3. 錯誤・脅迫・詐欺などによって遺言書
  4. 本人以外の人間が捏造した遺言書
  5. 遺言書の書式を満たしていない

 認知症を患っている場合は、1が特にわかりやすいでしょう。また、判断能力の落ちた人に対して、その人が判断できないような情報を吹き込み、錯誤させるようなやり方で遺言書を書かせた場合も取り消されれば無効になります。

 ただこれらは、判断が非常に難しい問題でもあります

 「本当にその人に判断能力があったのかどうか」「遺言書は、無効か有効か」で争いが生じる可能性もあります。遺産相続人の間で争いが起きた場合は、裁判によって判決が下されることになります。

認知症の人が遺産相続人に含まれる場合は、「成年後見制度」の利用を

 「夫を亡くしたが、その相続人である妻が認知症を患っている」などのケースは、それほど珍しくはありません。
 このようなときに力になってくれるのが、上でも挙げた「成年後見人」です。なお判断力が落ちた人をフォローする立場としては、「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3パターンがありますが、ここでは「成年後見人(判断能力が欠如している状態が、通常の状態である人をサポートする役割)」で説明します。

 成年後見人は、認知症の人に代わって財産を管理します。そのため、遺産の相続においても、この成年後見人が代理人として判断していくことになります。これが原則です。

【成年後見人と成年後見監督人】

 ただ、ここで一つ問題が起きる可能性があります。
 それが、「成年後見人もまた、遺産相続人に含まれている」というケースです。
 たとえば、「認知症を患っている母親の成年後見人を、娘が務めている」などの場合です。
 このようなケースでは、「母親の遺産相続分を、成年後見人である娘が自由にしてしまうことは利益が相反するため問題である」と判断されます。
 これを回避するためには、「成年後見人に代わって成年被後見人のために遺産分割手続を行う役目」の人が必要になってきます。成年後見人の事務を監督するために「成年後見監督人」が家庭裁判所に選任されている場合は「成年後見監督人」がその役割を担い,「成年後見監督人」が選任されていない場合には,スポット的に「特別代理人」を家庭裁判所に選任してもらい,「特別代理人」が成年被後見人の代わりに遺産分割協議に参加することになります。

【成年後見人が登録されていなかった場合】

 人が亡くなるタイミングは、読み切ることができません。
 「もう100歳を超えており、病気も患っていて長く入院している」などのような場合は、認知症を患っている妻側に成年後見人を設定することもできるでしょう。
 しかし、「妻は認知症を患っているが、夫はまだまだ元気だった。しかし70歳前に、交通事故で突然この世を去った」というような場合は、妻側に成年後見人が設定されていない場合もあります。

 このように、「認知症を患っている遺産相続人に、成年後見人がついていない状態で旅立った場合」は、その段階で、「成年後見開始の申し立て」を行わなければなりません。ここで成年後見人を立てるわけです。
 なおこの「成年後見人になれる人」は親族に限られませんが、
・未成年
・家庭裁判所で免じられた法定代理人(親権喪失の審判を受けた)など
・被後見人(この場合は認知症の「妻」)に対して、訴訟を起こした経歴がある者など
・行方不明者
は、成年後見人にはなれません。

認知症になる、その前にできること

 認知症になるタイミングを、完全に読み切ることはできません。
 認知症は徐々に進行していくものではありますが、「昨日までは判断能力があった、今日からは判断能力がない」と線引きができるものではないのです。
 このため、「認知症になる前にできること」は限られてきます。
 ただ、「自分の父親も母親も認知症を患っていた」「近頃記憶力が落ちてきた気がする」「80の坂を越えた」などのような状況であるのなら、判断力がある間に遺言書を作るのもよいでしょう。
 認知症になる前に作られた遺言書は、上でも述べた通り、法的な効力を発揮するものだからです。
 遺言書は必要に応じて書き換えも可能ですから、不安要素があるのであれば、まずは作成してみるとよいでしょう。遺言書があれば自分の考える「理想の遺産分配」が可能となりますし、また残された人間も戸惑わなくて済みます。

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