「遺産相続」は多くの人が経験することになるものではありますが、同時に、1人が行う遺産相続の回数は決して多くはありません。
そのため、遺産相続においては戸惑うことやわからないことがたくさん出てくる場合もあります。
今回はこの遺産相続を、「遺留分」に注目してお話ししていきます。
- そもそも遺留分とは何か。
- 遺留分を請求しないことと相続の放棄は何が違うのか。
- 遺留分侵害額請求を行使しないことの注意点
この3点を解説していきます。
「遺留分」とは何か
「遺留分」とは、近親者に留保された相続財産(の一部)であり、被相続人の生前処分や遺言などでも奪うことができないものをいいます。
よくドラマや小説、まんがなどで、身よりのないお金持ちが親切にしてくれた血のつながりのない人に全財産を譲ると遺言を残し、周りの親族がパニックに陥るといった描写がされています。
しかし遺留分があるため、この「血のつながりのない人」は、遺留分を持つ権利者から請求を受けると金銭を支払う義務を負うことになります。
たとえば、亡くなった人に配偶者と子ども2人がいたとします。
特に遺言を残していない場合、配偶者が2分の1の遺産を受け継ぎ、子どもAが4分の1、そして子どもBが4分の1の遺産を受け継ぐことになります。
ここに仮に「私の財産は、親切にしてくれた家政婦にすべてを譲る」という遺言があった場合でも、法定相続人である配偶者と子ども2人は、遺留分相当額の金銭を渡すように主張することができるというわけです。この請求を遺留分侵害額請求といいます。
この場合は、請求できる金銭は、配偶者が遺産の4分の1相当、子どもAが8分の1相当、子どもBが8分の1相当となります。
なお、遺留分権利者は遺留分侵害額請求権を行使する義務はありません。行使しないこともできます。一部の遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行わない場合、他の遺留分権利者の請求できる金額が増えるといったことはありません。
遺留分侵害額請求権を行使しないことと相続の放棄、この2つはどこが違う?
遺留分侵害額請求権は行使しないという選択があります。これと混同されがちなのが「相続の放棄」です。これは似ているようで違います。
1.遺留分侵害額請求権を行使しなくとも、債務を背負う可能性はある。対して相続の放棄の場合は債務を受け継ぐこともなくなる
相続の放棄は、「本来は法定相続人にあたる人が、相続を放棄すること」をいいます。この場合、「この人はもともと法定相続人ではなかった」と扱われることになります。相続権を失う代わりに、負の財産(借金など)も負うことがなくなります。遺産の相続人ではなくなるわけですから、遺産分割のための協議などに参加することはできなくなります。
対して遺留分侵害額請求権を行使しなかったとしても相続債務を負担しないことにはなりません。これが相続の放棄との大きな違いです。そのため、「プラスの財産の配分については遺言のとおりで構わないから遺留分侵害額請求権を行使しない。自分はプラスの財産を相続しないので、債務も負わなくて済むはず」と安易に考えるのは間違いです。
2.法定相続人の1人が遺留分侵害額請求権を行使しないとしても、ほかの相続人の遺留分には影響がない。相続放棄の場合は影響がある
遺留分は親族関係に応じて法律により割合が定まっています。一部の遺留分権利者が遺留分侵害額請求権を行使しない場合でもほかの相続人の遺留分が増えることはありません。
これに対し「相続の放棄」の場合は、ほかの人が受け継ぐことになる遺産の相続分が増えることになります。
3.遺留分の放棄は生前でも可能、相続の放棄は死後のみ
遺留分侵害額請求権を行使するかしないかは被相続人の死後の話ですが、被相続人の生前に遺留分権利者は遺留分の放棄をすることが出来ます。ただし、その放棄を正当化するだけの十分な財産的給付を受けているかなどの観点から家庭裁判所の許可が必要とはなります。
対して相続の放棄は、死後にしか行うことができません。
遺留分侵害額請求権を行使しないことの注意点
遺留分侵害額請求を行うことは故人の遺志に背くことになるのではないか。
このように考えて遺留分侵害額請求をためらう人も多いかと思います。
しかし、遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分の侵害にあたる贈与・遺贈を知ったときから1年間という行使期間があります。
のちに思わぬ相続債務が見つかることもあり、遺留分侵害額請求をしなかったことで大きな負担を抱えることもありえます。1年はあっという間に過ぎますので後になった行使しておけばよかったと後悔することにもなりかねません。
遺言や生前贈与により遺留分が侵害されたときは、故人の遺志だからと安易に受け止めず、遺留分侵害額請求を行うかどうかをきちんと考える必要があります。