人が亡くなったとき、その遺産を相続する立場の人には多かれ少なかれ面倒な事が起きることになります。
「遺産」というとプラスの遺産のことだけを思い浮かべてしまいがちですが、実はマイナスの遺産もあります。また、借金など明確なかたちではなくても、「残しておくことで面倒が起こるもの」もあります。
そのうちのひとつが、「自分では利用しない土地や家などの不動産」です。
空き家をそのままにしておくと大変なことに
「老いた両親が住んでいた家がある。母はすでに亡くなり父もその家で亡くなった。しかし自分は遠く離れた土地で家を建てており、実家に戻るつもりはない。ただ、今すぐに壊すのも面倒だし、気持ち的にも落ち着かない」という人はいるものです。
しかし、どのような事情があるにせよ、「空き家のままにしておくこと」は良いことではありません。
空き家にしておくと、災害時などに隣家に迷惑をかけることがあります。また不審者の侵入などを許してしまうこともありますし、家自体が荒れ果てることでその土地の評価が下がってしまうこともあります。
また、平成27年には「空家等対策特別措置法」が施行されました。
これは、「空き家をそのままにしておいた場合、行政側が修繕や撤去を要求できる。従わない場合は行政代執行を行える」とするものです。また、「特定空家等」とされた場合、固定資産税についての特例の適用を受けることが出来ず,固定資産税が増額されます。
このため、「空き家であり、かつ今後も使うことがない」ということであれば、できるだけすみやかにだれかに貸したり売ったりといった方法をとることが勧められます。
ただ、「だれかに貸したり売ったりしたいが、立地も悪く、借り手(買い手)がつかない」ということもあるでしょう。それならば更地にしてしまいだれかに売ってしまえば……と思うかもしれませんが、「借り手(買い手)がつかない土地」は、更地にしても買い手がつかない場合が多いといえます。
買い手がつかないと、ずっと固定資産税を払い続けなければならなくなります。
このような事態を避けるための考え方として、「土地の相続放棄」があります。
土地の相続放棄は可能?
結論から言ってしまえば、「土地の相続放棄」は可能です。
ここでは「土地」としていますが、「更地にする前、家が建った状態」であっても、家ごと相続放棄をすることが可能なのです。
あなたが相続放棄をし、あなた以外で相続放棄をせずに単純承認した相続人がいれば,その土地(や家)をあなたが管理する必要は一切なくなります。したがって、固定資産税を納付する必要もなくなり、その土地(や家)を管理する義務も放棄することができます(※例外があります)。
不動産の相続放棄は、ほかの財産同様、3か月以内に手続きをする必要があります。
日本の法律においては、「遺産の相続放棄をすること」を表明しなかった場合は自動的に単純承認(動産・不動産・また債務を無条件に引き継ぐこと)となりますから、相続放棄をする場合は自分たちで動かなければなりません。
なお相続の方法として「限定承認」という選択肢もあります。
不動産の相続に焦点を当てて解説していきましょう。この場合、「自宅の評価額が500万円である。しかし負債(借金)は1500万円である。500万円を払って負債(借金)を清算することで、家を相続する」などのやり方をとることになります。
繰り返しになりますが、相続放棄にしろ限定承認にしろ、「3か月以内に手続きをすること」が重要です。
また後述しますが、相続放棄をする場合、「自分にとってプラスとなる財産だけを残し、マイナスとなる不動産だけを手放す」ということはできませんから、この点も注意してください。
また、たとえ相続放棄をしたとしても、次の管理人が決まるまではその土地を管理していかなければならなくなることもあります(※後述します)
土地の相続放棄。そのメリットとマイナス点
「相続放棄」は、決して良い点ばかりではありません。相続放棄にはメリットもありますし、デメリットもあります。それについて解説していきます。
【メリット】
1.固定資産税を支払わなくて済むようになる
上でも述べましたが、相続放棄をすれば固定資産税を支払う必要はなくなります。
固定資産税は非常に大きく、10万円以上に及ぶことも決して珍しくありません。
なお、「立地が良く」「新しい家」の場合は固定資産税も高くなります。ただこのような物件の場合は、たとえ相続放棄というかたちで手放さなくても、借り手・買い手がつくことはあります。このため、「相続放棄をして固定資産税を払わなくすることが得か、それとも借り手・買い手がつくまで保持するか」を考えたうえで結論を出さなければなりません。
2.面倒な話し合いに参加しなくて済むようになる
「遺産の相続」は、揉めることも多いものです。「多少財産があったとしても、人と話し合うのが嫌。揉め事は避けたい」と考える人にとっては、相続放棄はひとつの選択肢となるでしょう。
【デメリット】
1.「マイナスの財産だけを放棄する」ということはできない
相続放棄は、「すべての財産の相続権を放棄すること」だと考えてください。そのため、「マイナスになる不動産だけ放棄して、預貯金だけ相続する」などはできません。
また、あなたが相続放棄した土地を引き継いだ人が、その土地を売って利益を出したとしてもその利益を受け取ることはできません。
2.「管理義務」を負う可能性がある
「管理義務はだれが負うのか」は考えなければなりません。
遺産相続人が複数人いて、そのなかであなただけが相続放棄をしてほかの人が土地を相続したという場合は、相続財産の管理も「ほかの人」が受け継ぐことになります。
しかし「ほかの遺産相続人全員が、あなたと同じように相続放棄をした」という場合は、たとえ相続放棄をしていたとしても管理義務が残ることになります。このため、管理費用などが掛かり続けることになるのです。
「管理義務をだれが負うか」は、「ほかの人の判断」によっても変わってくるものです。このため、ほかの相続人の考えもしっかりと聞いておかなければなりません。