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行方不明の相続人・・・ストップする相続の協議、その対処法

山下江法律事務所

目次

行方不明の相続人・・・ストップする相続の協議、その対処法

 さまざまな理由で、今現在の自分の生活を捨てて行方をくらます人がいます。また、山や海などで行方不明になってしまい、家族がその帰りを待ち続けているケースもあります。加えて、なにがしかの外的な要因と思われることで行方がわからなくなってしまい心配している……というケースもあるでしょう。
帰りを待ち続けている間に家族の構成が変化したり、だれかが亡くなったりすることもあります。

  ただ事故や事件の可能性が高い場合は警察も積極的に動きますし、残された家族としても「戻ってくるまでさまざまな手続きをすることはやめておきたい」と考えるケースが多いと思われます。
そのためここでは、特筆しないかぎりは、最初に挙げた「自分の意志で自発的に、今の生活を捨てて行方をくらました人」を想定し、そのような人が相続権を有していた場合の対処方法についてお話ししていきます。

行方不明者であっても相続権は消えない

 まず大原則として知っておいてほしいのは、「相続人の中に行方不明者がいる場合でも、その人の相続権は自動的に消滅することはない」ということです。

 たとえば、「兄は中学を卒業した日に行方をくらまし、それ以来どこにいるかわかっていない。母が亡くなったので遺産相続の話をしたいが、一度も戻ってきていないのだから遺産を継ぐつもりもないだろう」「35歳くらいで、夫は妻子を残して出奔した。それ以来連絡がつかず、お世話になった義父が亡くなった」などのような場合でも、行方不明になった方には相続権は残されているのです。

 このため、たとえその相続人の行方がわからなくても(またその遺産相続人にも遺産を相続する意思がなくても)、他の相続人だけで遺産分割協議を行うことはできず、全相続人で遺産分割協議を行うことが必要です。相続人が死亡しているという届出が出されない限り、その相続権は消滅しないのです。
 このため、相続権を持つほかの人たちは、行方不明になった遺産相続人を探し出す必要があります。

行方不明者の探し方と不在財産管理人

 自らの意思で失踪した場合、その行方を探るのは困難です。特にその行方不明者が念入りに準備していたり、また行方不明になってから長い時間が経っていたりする場合は、探すのが非常に難しくなります。

 ただ、住民票や戸籍の附票(ふひょう)を確認し、最後に登録されていた住所を調べることで行方が分かることがあります。

 戸籍の附票とは、「戸籍が作られてから又は入籍してから、~最後に住所変更をするところまでの履歴を記載したもの」です。このため、これを辿れば現在の住まいが判明することもあります。
 戸籍の附票は、本人,その配偶者,直系親族(やその代理人)が取り寄せることができるものです。これを手に入れることができれば、本人の居場所を突き止め、連絡することができるかもしれません。 

ただし、行方不明になった後に、 

  • 本籍地を移している
  • 結婚などによって、新しい戸籍を得ている

などの場合は、戸籍の附票を辿っても現在の住所が分からないこともあり,さらに新しい戸籍の附票を確認しなければならないこともあります。
 また、「戸籍はそのままで、最新の住所もわかった。しかしそこにはだれも住んでいなかった」などのようなケースもあります。

  「姿をくらましたのはここ12年の話である」などの場合は、この「戸籍の附票を確認する」という工程で居場所が判明することが多いといえます。しかし行方不明期間が長期にわたっており、かつ意図的あるいは人生の変化があった場合はこの方法では居場所を突き止めることが極めて困難になってくるのです。

 探偵などに頼んで行方を探すのもひとつの方法ではありますが、これはお金もかかりますし、また確実に見つかるとも言い切れません。遺産相続の件の解決を考えるのであれば、「不在者財産管理人の選定申立て」を行うのもひとつの方法です。
 これは、「行方不明者の相続人に代わって財産を管理してくれる人(財産管理人)を選定し、選任するための手続き」をいいます。
 不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得ることで、遺産分割協議に参加し、同意することも可能です。 

 なお、この「不在者の財産管理人」になるための手続きは、「行方不明になってからどれくらいの期間が経っているか」には左右されません。たとえば、「いなくなってから1年しか経っていない場合でも申立てを行うことができますし、逆に30年経っていても行うことができます。

生死すらも分からない、そんな場合は失踪宣告を

 「行方不明になった人間が生きているかどうかもわからない」「いなくなってから随分長い時間が経っておりもう帰ってくる意思はないだろうと思われるし、家族としても諦めている」などのような場合もあるでしょう。

 このようなときには、「失踪宣告」を行うことも考えるべきです。

 失踪宣告とは、「その行方不明者が死亡したものとみなすこと」をいいます。失踪宣告が認められると、法律上は死亡したものとみなされ、相続手続きを正式に進めることができます。
 災害(地震など)の場合は行方不明になってから1年(特別失踪)、それ以外の失踪(普通失踪)の場合はいなくなってから7年以上が経過した段階で申立てを行うことができるもので、原則として3か月以上の公告期間が必要です。

 「不在者財産管理人」と「失踪宣告」の最大の違いは、「行方不明者が生きている前提か、それとも死亡しているととらえるか」の違いです。前者では不在者財産管理人はあくまで「財産の管理」にとどまりますが、失踪宣告の場合は、普通失踪は7年以上行方不明である場合,特別失踪は災害や事故などで1年以上生死不明の場合に死亡したものとみなされます。 

 ただし、失踪宣告を受けた人が相続人であった場合、その子(孫など)は代襲相続人として相続権を持ちます。
 そのため、

  •  亡くなったのが祖父
  • 父が失踪宣告を受けた
  • 孫は存命中である

という場合は、祖父の遺産を孫が引き継ぐことができます。

 行方不明者が相続人に含まれている場合、相続手続きは複雑になります。まずは所在調査を行い、それでも見つからない場合は不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった法的手続きを検討する必要があります。

執筆者

宮部明典

呉支部長/弁護士(相続チームリーダー)

共著書に『相続・遺言のポイント56』。税理士など他士業と連携しワンストップで相続の総合解決を目指す(一社)はなまる相続監事。事務所全体での相続に関する相談件数は約4,800件(2005~~2025年5月)と相当数を取扱っている。
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