それぞれの家庭には、それぞれの事情があります。
そのため、「子どもではなくて孫に相続させたい」「子どもはすでに亡くなっているので、その子どもに遺産相続をさせたい」と考える人もいることでしょう。
これは可能なのでしょうか。
ここでは、「遺産相続の原則」「孫に遺産相続をさせる方法」について記載していきます。
なお特記しない限りは、以下で出てくる家族の続柄を表す単語は、すべて「今亡くなった人から見た立場」だと考えてください。
相続の大原則を知る
「遺産相続」には、「大原則」があります。
よくドラマなどで「残された財産のすべてを、(血縁関係のない)〇〇に渡す」などと遺言状を書いているケースもありますが、こう書かれていれば無条件でその〇〇に遺産を渡せるというわけではありません。法定相続人が取り分を主張することもできるからです。
この「法定相続人」は、遺産相続のことを理解するうえで重要なキーワードとなります。
法定相続人とは、民法の定める相続人を指す言葉です。特に何の手続きもしなかった場合はこの法定相続人が遺産相続をすることになりますし、仮に遺言書があった場合でも法定相続人ならば遺留分(法定相続人が必ず相続できる財産の分)を請求することができます。
この「法定相続人」は、順位が定められています。順位が上の者がいた場合は、順位が下の者は遺産相続できません。ただし「配偶者」だけは、必ず遺産相続ができます。
第1位……子どもまたは代襲相続人(後述します)
第2位……両親などの、直系尊属にあたる人
第3位……兄弟姉妹
したがって,妻と子ども2人がいる人が亡くなった場合、その人の遺産は妻と2人の子どものみに渡されます。
これが原則です。
そのため、たとえ直系の孫であっても、(孫の親である)子が生きている限り,孫は法定相続人とはなりません。つまり法定相続では子が死亡していない限り孫に対して遺産相続をさせることはできないのです。
「自分が死んだら、自動で孫に遺産を渡せるだろう」「(遺言書ではなく)エンディングノートに『孫に渡したい』と書いてあれば、法の力によって孫に遺産が行くだろう」と考えるのは間違いだというわけです。
代襲相続とはどんなものか
このように、孫は(その孫の親である)子が生きている限り法定相続人にはなりません。
しかし孫の親が先に亡くなっているときには孫が法定相続人となります。
「代襲相続(代襲相続人)」という考え方です。
子どもを持っている人が亡くなった場合、配偶者と子どもに遺産が相続されるのはすでに述べた通りです。
しかし、「受け継がせるべき子どものうちの1人が親よりも先に旅立っていて、遺児が遺されている」という場合もあります。
このような場合は、「孫」にあたる人物が、「子ども」にあたる人物に代わって遺産を引き継ぐことになります。これを「代襲相続(代襲相続人)」といいます。
この代襲相続(代襲相続人)の制度を利用するためには、遺言書なども必要ありません。そのまま、子どもが遺産を引き継ぐことになります。
なお、「子どもも孫も亡くなっているが、孫が遺したひ孫がいる」という場合は、ひ孫が遺産相続することになります。
また、「両親もいないし子どもも配偶者も持たなかった」という場合は、兄弟姉妹が遺産を相続することになります。このときに兄弟姉妹が亡くなっていた場合は、兄弟姉妹が遺した子ども(甥や姪)が代襲相続の対象となります。しかし「子どもが亡くなった場合」は孫よりも下の代にまで遺産相続の権限が発生するのに対し、兄弟姉妹の場合の代襲相続は甥・姪までです。甥や姪の子どもには、遺産相続の権限は発生しません。
それ以外の方法~生前贈与と亡くなった後の遺し方について
「代襲相続」の制度はあるものの、これは言い換えれば、「自分にとって子どもにあたる人間が生存しているのならば、自動的に孫に直接遺産が相続されることはない」ということになります。
そのため、「子どもも存命中だが、孫に遺産を渡したい」と考えるのであれば別の方法を考える必要があります。
1.遺言書を作る
恐らく、真っ先に思い浮かぶのがこの方法でしょう。
遺言書に「孫の〇〇に遺産を渡す」と書き記しておくのです。こうすることで、死後の遺産分配において、孫に遺産を引き継がせることが可能となります。
なお遺言書には、決まった形式があります。またエンディングノートでは遺言書の代わりにはなりません。
遺言書を作成する場合はきちんとした手順にのっとる必要がありますし、不安な場合は弁護士などの専門家に相談するようにしてください。
2.養子縁組をする
「配偶者」を除くと、もっとも遺産相続の順位が高いのは「子ども」となります。子どもがいれば、その子どもには2分の1(÷人数)の遺産を相続させることができます。
この「子ども」には「養子」も含まれています。養子であっても実子であっても、現行法では引き継げる遺産の割合は変わりません。
そのため、「孫を養子にする」という方法が有用となります。こうすれば孫と子どもの両方に対して、同じ分の遺産を引き継がせることができます。
3.生命保険を利用する
「亡くなったときに支払われるお金」のひとつとして、「生命保険金」があります。
この生命保険金の受取人として孫を指定しておくことで、孫にお金を残すことができます。これは「遺産相続」ではありませんが、「お金を残せる」という点では共通しています
4.生前に渡す
生前贈与(生きている間に、特定の人に対して財産を渡すこと)をしたり、教育資金として渡したりすることもできます。
これも「遺産」ではありませんが、確実に孫に対して財産を渡せる方法です。
遺産相続の場合とは異なり、自分の意志を最大限に反映できることが強みです。ただし金額によっては贈与税が発生することがありますから、そのあたりは注意しなければなりません。
「孫に遺産相続をさせること」には、条件もついてまわります。ただ、「絶対に不可能である」ということもありません。
分からないことがあったら、弁護士事務所の扉を叩くようにしてください。