遺産関係の単語のなかには、一度聞いただけでは少し意味が理解しにくいものもあります。
「死因贈与(しいんぞうよ)」という言葉も、そのうちのひとつだといえるでしょう。
ここでいう「死因」とは、一般的な意味での「死因」とはまた異なる使い方がされているので、混乱する人も多いかと思われます。
ここでは、
・死因贈与とはそもそも何か
・死因贈与と遺言との違いは何か
・死因贈与のメリットとデメリット
について取り上げて解説していきます。
死因贈与とは何か
「死因贈与」とは、「贈与者の死亡によって効力を生じる贈与」をいいます。
一般的に、「死因」というと、「死亡した原因」を指します。たとえば、「〇〇さんの死因は?」と聞かれたときは、「肺がんだった」「胃がんだった」のような答えとなるでしょう。
しかし「死因贈与」の場合は、「死亡を原因として効力を生じる贈与」となり、一般的に使われる「死因」とは少し意味が変わってきます。
そのため「死因」とはされていますが、「死亡した理由」が問われることはありません。がんで亡くなろうが事故で亡くなろうが、死因贈与は有効です。
この死因贈与では、「自分が亡くなることを効力発生の条件として、Aに自分の財産(不動産の物件名など)を贈与する」という約束を行うことになります。
また、この「死因贈与」の場合は、「贈与」とはされているものの,死亡をきっかけとすることから「相続」の性格を持つようになります。このため、死因贈与にかかる税金は「贈与税」ではなく「相続税」の規律に従っていくこととなります。
詳しくは後述しますが、死因贈与と遺言の最も大きな違いは、死因贈与は契約であり,「贈与する側と受け取る側、両方の合意が必要という点になります。
遺言との違いは、「受け取り側の合意の有無」にある
ここからは、死因贈与と遺言の違いを見ていきましょう。また、「相続」についても軽く触れます。
1.受け取り側の意思が必要かどうか
上でも少し触れましたが、死因贈与の場合は「贈与側と受け取り側(受け取り予定側)の合意が必要」というのが大きなポイントです。
死因贈与と遺言は、「自分の指定した人に対して遺産を渡す」ということで、しばしば混同されます。
しかしこの2つはまったく違うものです。
死因贈与の場合は、贈与する側だけでなく、それを受け取る側(受け取る予定側)の承諾意思も必要です。
対して遺言の場合は、「受け取る側の意思や意思表明は必要なく、送る側の一方的な指定で財産を譲ることができる」という性質を持ちます。
つまり、「受け取り側(受け取り予定側)の意思が介在するかどうか」の違いが生じてくるのです。
2.撤回が自由にできるかどうか
死因贈与も遺言も、撤回をすることは可能です。
遺言書はいつでも遺言の方式にしたがった手順により遺言を撤回することができます。遺言は一度書いたら直せないというものではなく,何度でも自由に書き換えることができます。
死因贈与の場合も撤回自体は認められます。
ただし、死因贈与の条件として「体が不自由になった私の面倒をみること」などの条件(負担)があり,その条件(負担)を受贈者(受けとる側)がほぼ終えてしまったような場合は撤回ができない可能性もあります。たとえば、「Aとの間で面倒をみてもらうことを条件として死因贈与契約を結んでいたが、やっぱりAではなくBに財産を残したい」のように希望した場合です。このとき、Aがすでに面倒をみて相応の負担をしているのであれば、一方的な死因贈与の撤回はAにとって大きな不利益となります。
このため、撤回が認められないケースもあるのです。
3.手続きと税率の違い
死因贈与として不動産を渡そうと決めた場合、「贈与する側が生きている間は贈与側が不動産の所有権を有しているけれど、亡くなった後は贈与された側に所有権が移る」というかたちでの登記が可能です。
ただし、贈与する側が亡くなったときに所有権を移す手続きをする場合は、遺言でいわゆる相続させる遺言をした方が簡単に行えます。なぜならこの場合ならば、受け取った人や遺言執行者が単独で手続きができるのに対し、死因贈与では相続人全員の協力が必要だからです。
法定相続 | 遺言 | 死因贈与 | |
贈与する側の意思表示 | 不要 | 必要 | 必要 |
受け取る側の意思確認 | 不要 | 不要 | 必要 |
死因贈与のメリットとデメリット
死因贈与と、相続・遺言の違いをみてきたところで、死因贈与のメリットとデメリットに関して記載していきます。
死因贈与のもっとも大きなメリットは、「遺産を渡す代わりに、面倒をみてくれ」などのような条件をつけられるところにあります。
遺言はその性質上、「最終的に自分の面倒をみてくれた人に対して残すもの」となりがちです。
しかし死因贈与の場合は、「介護をすることを条件として財産を残す」という「契約」です。この条件が満たされなかった場合は、裁判を経て、死因贈与の契約を取り消すこともできます。
このような特性を持つため、指定された側が介護の義務を果たす確率は高くなると考えられます。
なお死因贈与は口頭でも契約は成立するものの、「言った、言わない」でもめることもあります。そのためきちんと書面で契約を交わすことを強くおすすめします。