終活を考える人にとって、「遺産をどうするか」は大きな問題です。
ただ、遺産について考えるのであれば、生前贈与についての知見も持っておきたいものです。
「遺産」は「自分が死んだ後に残していくことになる資産」ですが、「生前贈与」は「生きているときに譲り渡す資産」だといえます。遺産に比べて自由度が高いのが大きな魅力であるこの「生前贈与」について詳しく解説していきます。
生前贈与とは生前に財産を分けることをいう~「遺産」との違いとは
「生前贈与」とは、「生前(生きている間)に財産を人に贈り与えること」をいいます。
生前贈与の対象となるものは、現金(預金)だけにとどまりません。土地や建物に代表される不動産も生前贈与の対象となりますし、有価証券も対象となります。
また、少しイメージしにくいかもしれませんが、美術品や宝石といった芸術品なども対象となります。
この生前贈与は、「亡くなった後に分けることになる『相続』」とはまったく異なる性質と特徴を持っています。
生前贈与のメリット3つ「だれにでも渡せる」が大きなメリット
生前贈与には、大きく分けて3つのメリットがあります。
- 自由度が非常に高い
- 節税対策になる
- 条件を満たすことによって大きな金額でも次世代へ非課税で資産を移せる
ひとつずつ解説していきます。
1.自由度が非常に高い
生前贈与のもっとも大きなメリットのひとつとして挙げられるのが、「自由度が非常に高いこと」です。
相続の場合、遺言書がなければ法定相続人(配偶者や子どもなど。条件によっては兄弟姉妹や孫などが相続人となることもある)が引き継ぐことになります。
遺言書があったとしても相続人らが遺言書とは別の分け方を進める可能性もあります。
映画などで大富豪が「自分の財産は、血のつながっていない〇〇に全財産を相続させる」と遺言書を残しているシーンなどもありますが、そのような遺言書を残しても一定の近親者には「遺留分」を主張する権利があり、故人の遺志どおり事が進むとは限りません。
しかし,生前贈与の場合は、自分の意思で渡す相手を選択できます。
だれにどれだけの財産を渡すのかを自由に決めることができますし、贈与時期を選ぶこともできます。
(ただし,場合によって遺留分侵害の問題は生じる可能性はあります。)
2.節税対策になる
「自分が死んだら法定相続人である妻と子どもにそのまま遺産を渡すつもりだ」という場合でも、妻や子どもへの生前贈与にはメリットがあります。
なぜなら生前贈与は節税効果があるからです。
それを知るためには、「暦年贈与」というキーワードが手がかりとなります。
暦年贈与とは、ごく簡単に言うのであれば、1年間の非課税枠を利用した生前贈与のことをいいます。
相続の場合は遺産が基礎控除額を超えれば相続税が発生しますが、この暦年贈与は毎年110万円以内ならば贈与税をかけずに渡すことができるのです。
たとえば相続財産が1億円あると考えたとき、15年にわたり子ども3人にそれぞれ毎年110万円まで暦年贈与で贈っていたとしましょう。その場合、実に4950万円までの財産を非課税で渡すことができ,遺産が減った結果,相続税が安くなるのです。
生前贈与による資産の承継を計画的に行えば、大幅な節税対策となります。財産が多く、また暦年贈与の金額が大きければ1000万円近くもの節税になることすらあります。
3. 条件を満たすことによって大きな金額でも次世代へ非課税で資産を移せる
「暦年贈与はありがたいが、毎年110万円までという制限がつらい。子どもの進学などで、一度に多くのお金が必要になる」ということもあるでしょう。
このようなとき,多額の現金を非課税で贈与できる制度があります。
祖父母が孫に対して教育資金として生前贈与を行う場合は、1500万円までは非課税となる制度があるのです。
教育資金非課税申告書などを用意する必要はありますが、これは非常に有意義な制度だといえるでしょう。
また、同じように多額のお金が必要になるシチュエーションとして「住宅購入」がありますが、住宅取得資金贈与ならば贈与税がかかりません(※ただし、「直系の子どもであること」「20歳以上であること」「日本国内に住居があること」などのようにさまざまな条件があります)。
- 自分の意思で自由に贈与できる相手を選べること
- 相続税対策になる
- 条件を満たすことによって大きな金額でも次世代へ非課税で資産を移せる
生前贈与の活用によるメリットとしてこの3つは非常に大きいといえるでしょう。
生前贈与にもデメリットはある!税金の問題
ただ、生前贈与にもデメリットはあります。
生前贈与は節税対策として使えますが、基本的に贈与には税金がかかります。
また、土地や不動産を渡す際には、登録免許税や不動産取得税がかかりますし、贈与税の税率は相続税の税率よりかなり割高ですから注意が必要です。
またこれは完全に予期することは難しいのですが、「亡くなる3年以内に行われた生前贈与は、相続税の対象となること」も覚えておいてください。
たとえば、「今まで終活も何もしてこなかったが、病気であと1年だと余命宣告された! 生きているうちに駆け込みで生前贈与をして、相続税を浮かせたい!」と考えても非課税で贈与できない可能性もあるということです。
なお、生前贈与がきちんと行われたことを税務署に認めさせなければならないという煩雑さもあります。
そのため、生前贈与をされた人が書類をきちんとそろえ、申告をしておく必要があります。生前贈与を行う際は、贈る相手にも「これはお小遣いではなく、生前贈与だ」ということをしっかり伝えて対策するようにしておきましょう。
「生前贈与」は、終活をしていこうというのであれば、意識すべきことだといえます。