「財産目録」という言葉は、多くの人が一度は耳にしたことのある言葉だと思われます。しかし、その意味や作り方、メリットについては知らない人も多いものです。ここでは財産目録の作り方と作ることのメリットを解説します。
財産目録とは何か
まずは、「財産目録とは何か」について紹介していきます。
・財産目録の意味とは
財産目録とは、ごく簡単に言うのであれば、「財産の一覧表」です。
日本では人が亡くなると特段の事情がない限り、その財産を相続人が引き継ぐことになりますが、このときに正確な財産目録があると引き継ぐ財産が明確になり相続人が対処しやすくなります。
なお現在は、終活の一環として亡くなる前に自分で財産目録を作る人もいます。
財産目録は、「これがなければ相続の手続きを始められない」という性質のものではありません。ただ、財産目録があることで相続の手続きを非常に効率よく進めることができるようになります。
・財産目録、いつ作る?
財産目録は、「その人が亡くなった後に作るケース」と「終活の一環として生前に作るケース」に分けられます。
亡くなった後に作る場合は、相続が発生したあと速やかに作成するとよいでしょう。財産目録を作ることで、「どんな財産があるのか」がわかるようになりますし、それによって相続人が相続する財産などを可視化できるようになります。
生前に財産目録を作る場合は、終活の一環として行うことが多いといえます。ただし生前に財産目録を作成する場合は、財産目録を作った時点と死亡した時点で財産の内容が異なることがあります。このため、亡くなった時点で相続人が再びチェックする必要があります。
財産目録を作るメリット
財産目録を作ることにはさまざまなメリットがあります。それについて見ていきましょう。
・相続税の申告を考慮するときに役立つ
相続を行う際には、「相続税」が発生する可能性があります。
相続税が発生するケースは、基礎控除額以上の場合です。基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で求められるものです。たとえば、法定相続人が妻と子ども3人の場合は、5,400万円となり、これ以下ならば申告が不要であると判断されます(※ただし、亡くなった日から遡って3年以内に贈与財産を加算すると基礎控除を超える場合や、相続時の精算課税にかかる贈与財産があったりする場合は除く)。
財産目録を作っておくと、「相続税の申告が必要かどうか」などを判断できます。また、相続税が発生する場合は、その納付額などを明らかにすることができます。
・納付期限を知ることができる
相続税の納付期限は、「亡くなった日から10か月後まで」が基本です(土・日・祝日の場合はずれることがあります)。この「10か月」という期間は意外と短いものです。しかし財産目録を作り、財産を把握しておけば、納付期限までに滞りなく納付できる可能性が高くなります。
・円満に相続に至れる
「自分たちの家はそれほど財産もないから、もめることもないだろう」と考える人もいるかもしれません。しかし実際には、遺産分割事件のうち認容・調停成立件数をみると、全体の30パーセント近くが「1,000万円以下」であることがわかっています。また、5,500万円以下の層も約43パーセントとなっており、「財産が多いからもめる」というものではないと数字が示しています。
このような状況ですから、どの家庭であっても、相続でもめる可能性はあります。しかし財産目録をきちんと作成し、「何がどのようになっているか」「どれくらいの資産があるか」を相続人全員で確認できれば、トラブルが起きる確率を下げることができます。
・隠し財産の可能性の排除
遺産相続において問題が起きる原因のひとつとして、「亡くなった人の財産の全容を把握している人」と「一部しか知らない人」が混在することが挙げられます。後者の人が「本当は、まだ隠し財産があるに違いない」「あいつは財産を隠しているんだ」という疑いを持つことは、決して珍しくありません。
この疑いが事実であるにしろ事実無根のものであるにしろ、相続人のいずれかが疑いを持ってしまえば、話し合いは難航します。しかし、きちんとした財産目録と裏づけ資料が存在すれば、このような可能性を排除することができます。
財産目録に盛り込むべき内容
最後に、財産目録に盛り込むべき内容について紹介していきます。
財産目録の記載形式は、特に法律に定められているわけではありません。ただ一般的に、
- 不動産(所在や種類、広さなども記す)
- 現金や預貯金(金融機関や口座名なども記す)
- そのほかの資産(株や保険契約など)
- 負債(債権者も記す)
を記載するのが一般的です。要はできるだけわかりやすく書くのがポイントで、「それがどんなもので、どこにあり、どんな価値(金額、不動産の場合は広さなど)があるか」を記すようにしましょう。
「自分の財産をしっかりと把握できていない」「なんとなくわかるけれど、多分これくらいだと思う」などのような場合は、弁護士に相談をし、生前から財産目録の作成を行い、相続について向き合い、最終的には遺言や民事信託などを活用して相続で揉め事が発生しないようにしておくとよいでしょう。
なお、「人が亡くなった後に作成する財産目録」の場合は、より大変です。ネット銀行の口座や海外資産などは正確に把握するのが非常に難しく、相続人らがその存在に気付かずにほったらかしになる可能性があります。生前から意識して財産目録を作成しておき、随時更新していくことが望ましいといえます。
財産目録を作ることは、「残された家族にとって遺産相続を容易にすること」につながりますし、また家族・親族同士での争いを避けることにもつながるのです。