遺言を書く際に考慮しなければならないことの一つに遺留分を侵害する内容になっていないかどうか,という点があります。この記事では,付言事項を活用することにより,遺留分について配慮した遺言についてご紹介したいと思います。
遺留分とは,相続人のうち,被相続人の一定の近親者に留保された相続財産の一定の割合であり,被相続人の生前処分または死因処分によって奪うことのできないもののことをいいます。
一定の近親者とは兄弟姉妹以外の法定相続人を指します。
事例で説明します。
AB夫婦で子がCDの二人という家族でAが遺言を書くとします。
このとき,BCDの遺留分はB4分の1,CDはそれぞれ8分の1となります。
ここでAが次のような遺言を書いたとします。
「私の全財産をCに相続させる。」
このような遺言については,BやDは,遺留分を侵害されている,と遺言について文句を言えることになります。
ただし,例外もあります。
実は,遺留分を侵害しているかどうかは生前の贈与なども含めて計算することになっています。そのため,Aが生前にBやDに十分な贈与を行っている場合は文句を言えない場合もあります。一見すると遺留分を侵害しているようにみえても,実際は遺留分を侵害していない遺言があるということです。
このような例外にあたるのであればその事情を遺言に取り入れたらどうでしょうか。
遺言には付言事項といって,法的な効力はない文章を記載することが出来ます。付言事項では,家族に対する感謝や遺言を書くに至った理由などが記載されることが多く,数ページにわたる長いものを見かけたこともあります。
この付言事項において,遺留分の侵害がない遺言であると説明しておくのです。
例えば,先ほどの事例ですとこんな付言事項が考えられます。
「付言事項 私が全財産をCに相続させる旨の遺言を遺したのは,いまだCには何らの経済的な援助を行っていないからである。他方で,妻Bには10年前に自宅不動産を贈与しており,また,DにはDが家を建てるときに2000万円を贈与している。そういうわけなので,Cは遠慮せずに残った全財産を相続してくれればよいし,BやDは必要な協力をしてあげてほしい。」
いかがでしょうか。
このような付言事項があると,一見すると遺留分を侵害しアンバランスに見える遺言も一気にバランスに配慮した遺言であることがよく分かるようになります。
ちょっと脇道にそれますが,もしこの付言事項に記載したことが真実でなかったらどうなるでしょうか。
Cへ全財産をあげることを正当化したいがためにBやDへの贈与がないにもかかわらず先ほどの付言事項を遺言に記載していたとしたら?
付言事項の内容は遺言の法的な効力には影響を与えません。
そのため付言事項の中に事実と相違する記載があっても遺言が無効になることはありません。
一方で付言事項に記載したことが真実と扱われるわけでもありません。
真実は遺留分を侵害している,ということであれば,遺留分侵害額請求の問題が生じることになるでしょう。
遺言を遺す際,遺留分侵害が起きないように十分に配慮した遺言とするのが紛争回避のための王道となります。
そして遺留分に配慮していることが一見して分かりづらいようであれば付言事項を活用して遺留分に配慮した内容であることを説明しておくのがよいと思います。
遺言を作成する際は付言事項を活用することが有用な場合があります。
遺言作成について弁護士に相談してみませんか。
執筆者:弁護士法人山下江法律事務所