遺産分割協議をするにあたって,共同相続人の1人に他の共同相続人に対して債務を負担させて,その代わりに法定相続分を超えた遺産を取得させる内容の遺産分割協議を成立させることがあります。例えば,父の死亡により開始した相続において,共同相続人が母,長男,二男の3人であった場合,母を扶養することを条件として,長男が全ての遺産を取得するとの遺産分割協議を成立させた場合です。
では遺産分割協議成立後,長男が母を扶養する債務を履行しなかったとき,母や二男は遺産分割協議をやり直すよう請求できるのでしょうか。長男には母を扶養する債務の不履行がありますので,母や長男は,債務不履行を理由として遺産分割協議を解除することが考えられます。
この点,最高裁は,遺産分割協議が成立した場合,共同相続人の1人が他の共同相続人に対して負担した債務を履行しないときであっても,他の共同相続人は遺産分割協議を解除することはできないと判断しています。
したがいまして,母や二男は長男の債務不履行を理由に遺産分割協議を解除して,遺産分割協議をやり直すことはできません。このような場合には,母は,長男に対して扶養義務の履行を請求していくしかありません。
では,少し場面が変わって遺言の場合はどうでしょうか。例えば,父である遺言者が,自分の死後,母を扶養することを条件として,長男に全ての遺産を譲るとの遺言を残したような場合です(他に二男がいるとします)。
このような受遺者(長男)に一定の行為(母の扶養)を負担させることを内容とする遺贈を負担付遺贈といい,遺言として有効です。では,長男が母の扶養義務を履行しなかったとき,どうなるでしょうか。
負担付遺贈により,受遺者は義務を負担しますが,当該義務の履行・不履行は遺贈の条件とはなりません。よって,長男が母の扶養義務を履行しないからといって,遺贈が無効になるというわけではありません。
しかし,相続人は,受遺者が負担した義務を履行しない場合,相当の期間を定めて負担の履行を催告し,それでも履行しないときには,遺言の取消を家庭裁判所に請求することができるとされています(民法1027条)。したがいまして,母や二男は,最終的には遺言の取消を請求することができます。
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執筆者:山下江法律事務所 弁護士 山口 卓