前回私が書いたコラム(2011年6月17日掲載)では,「相続放棄」のお話をしました。今回はその続きです。
前回のコラムの内容は,
「相続人は,被相続人(亡くなった方)の積極財産(不動産などのプラスの財産)だけでなく,消極財産(借金などのマイナスの財産)も受け継ぐことになる。
そのため,被相続人が多額の借金(消極財産)を残して亡くなった場合,相続人は被相続人の借金を返済しなければならなくなる。
このような事態を避けるためには,相続人が,自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要がある(民法915条,938条)。」
というものでした。
このように,相続放棄の申述は「相続人」がすることになるのですが,今回のコラムでは,誰が「相続人」となるのかについて,お話ししたいと思います。
まず,被相続人の配偶者(被相続人の戸籍上の夫・妻)は,常に相続人となります(民法890条)。
その他,①被相続人の子(※1),②被相続人の直系尊属(被相続人の父母,祖父母…)(※2),③被相続人の兄弟姉妹(※3)の順序で,相続人となります(民法887条,889条)。「順序」ということは,つまり,前記②の者が相続人となるのは,前記①の者が全くいない場合であり,前記③の者が相続人となるのは,前記①の者も前記②の者も全くいない場合ということになります。
さて,被相続人に多額の借金があり,被相続人の配偶者と前記①の者の全員(代襲者,再代襲者…も含む(※1参照))が相続放棄の申述をしたら,誰が「相続人」となるのでしょうか?
相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法939条),このケースでは前記①の者が全くいない場合と同じ状況になり,次順位の前記②の者が相続人となるのです。
したがって,前記②の者も相続放棄をするのであれば,先順位である前記①の者全員が相続放棄の申述をして,自分が相続人となったことを知った時から3か月以内にする必要があります。
もし,前記①の者だけでなく,前記②の者も全員相続放棄の申述をした場合は,前記①の者も前記②の者も全くいない場合と同じ状況になり,前記③の者が相続人となりますので,前記③の者(代襲者も含む(※3参照))も相続放棄をするのであれば,先順位である前記②の者全員が相続放棄の申述をして,自分が相続人となったことを知った時から3か月以内にする必要があるのです。
相続手続や相続放棄の申述については,まずは当事務所にご相談下さい。
※1 被相続人の子が被相続人よりも前に亡くなっていたときに,被相続人の子の子(=被相続人の孫)がいれば,代わって相続人となります(民法887条2項)。これを「代襲相続」と言います。
被相続人の孫も被相続人よりも前に亡くなっていたときに,被相続人の孫の子(=被相続人のひ孫)がいれば,さらに代わって相続人となります(民法887条3項)。これを「再代襲相続」と言いますが,民法887条3項の規定によれば,「再々代襲相続」(被相続人のひ孫に代わって,被相続人の玄孫が相続人となるケース),「再々々代襲相続」…と続いていくことも考えられます(現実にはほとんどないでしょうが…)。
なお,前記のように本来の相続人に代わって相続人となる者を,それぞれ「代襲者(代襲相続人)」,「再代襲者(再代襲相続人)」,「再々代襲者(再々代襲相続人)」…と呼びます。
※2 例えば,被相続人の直系尊属として,被相続人の父母と祖父母がいる場合は,父母と祖父母の両方が同時に相続人となるのではなく,被相続人と親等(≒血筋)の近い父母が先に相続人となり,祖父母は次順位の相続人となります(民法889条1項1号ただし書)。
※3 被相続人の兄弟姉妹が被相続人よりも前に亡くなっていたときに,被相続人の兄弟姉妹の子(=被相続人の甥・姪)がいれば,※1と同様に,その者が代わって相続人となります。しかし,昭和55年の民法の一部改正により,被相続人の兄弟姉妹の場合は,※1とは異なり,「再代襲相続」,「再々代襲相続」…は認められないことになりました(民法889条2項)。
執筆者:山下江法律事務所 副所長・弁護士 田中伸