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スマホ・パソコンで遺言作成が可能に|自筆証書遺言のデジタル化と民法改正のポイントを弁護士が解説
遺言といえば、「全文を手書きして、押印するもの」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
しかし、間もなく、その常識が大きく変わろうとしています。
政府は、自筆が義務づけられている遺言について、パソコンやスマートフォンでの作成を認める民法改正案を閣議決定しました。これにより、長年指摘されてきた「遺言作成のハードルの高さ」が大きく緩和される可能性があります。
本コラムでは、今回の民法改正案の内容と実務への影響について、弁護士の視点から分かりやすく解説します。
【自筆証書遺言とは何か】これまでのルールと問題点
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自書し、日付と氏名を記載し、押印することで成立する遺言です。
公正証書遺言と比べて費用がかからず、手軽に作成できる点がメリットとされてきました。
しかし実務では、次のような問題が指摘されてきました。
- 高齢や病気により長文を書けない
- 書き間違いや書き直しが精神的・肉体的負担になる
- 字が読み取りにくい場合や遺言者に認知症の症状があった場合には、内容や遺言の有効性を巡って相続人間で争いになるケースが存在する
- 押印漏れや形式不備により無効になるリスクが高い
- 自筆証書遺言では、原則として検認手続きを要する
このような事情から、「遺言を作りたいが、手書きが大変で断念する」という方も少なくありませんでした。
【スマホ・パソコンで遺言作成が可能に】民法改正案の概要
今回閣議決定された民法改正案では、自筆証書遺言について、新たにデジタル作成(保管証書遺言)という選択肢が認められます。
具体的には、
- パソコンやスマートフォンで作成した遺言を認める
- 偽造防止・本人確認のため、本人が遺言の全文を読み上げる手続きを義務化
- 読み上げは、原則として法務局職員と対面で実施
- 例外として、職員が認めた場合に限りウェブ会議を利用可能
- 従来必要だった押印は廃止
とされています。
単に「デジタルで作ればよい」というわけではなく、本人の真意で作成したものか確認することを重視した制度設計になっている点が特徴です。
【なぜ「読み上げ方式」なのか】偽造・なりすまし防止の観点
スマホやパソコンで遺言を作成できるようになる一方で、最も懸念されるのが第三者による偽造や無断作成です。
そこで改正案では、
- 遺言者本人が
- 遺言の全文を
- 法務局職員の面前で読み上げる
という手続きを設けることで、
- 本人確認
- 内容理解の確認
- 自由な意思による作成かの確認
を行う仕組みとしています。
ウェブ会議が例外扱いとされているのも、慎重な運用姿勢の表れといえるでしょう。
【押印廃止の意味と実務への影響】
今回の改正案には、自筆証書遺言における押印の廃止も盛り込まれています。
これまで実務では、「内容は明確なのに、押印がないため無効」と判断されるケースも決して少なくありませんでした。
押印廃止により、形式ミスによる遺言無効リスクは大きく低減すると考えられます。
もっとも、遺言の内容が記載からは分かりにくい場合や、法的に無効な条項が含まれている場合には、引き続き紛争の原因となり得ます。
【弁護士が見るメリットと注意点】
〈メリット〉
- 高齢者・障害のある方の遺言作成が容易になる
- 字の読みにくさによる争いを防げる
- 遺言作成の心理的ハードルが下がる
〈注意点〉
手続きは想像以上に厳格になる可能性がある
- 法務局のマンパワーに限りがあることから、読み上げ手続きに時間や日程調整が必要となる可能性が高い
- 現時点で費用は不明
- 内容の法的チェックは依然として重要
特に、「法的に有効な遺言内容かどうか」は別問題です。
相続人の範囲や遺留分を無視した内容は、新制度でも相続争いの火種になりかねません。
【まとめ】遺言は「作りやすさ」+「専門家チェック」が重要
もし民法が改正された場合には、これまでの「遺言作成は難しい・面倒なもの」というイメージを大きく変更し得る転換点といえるでしょう。
もっとも、制度が変わっても、
- 誰に
- 何を
- どのように遺したいのか
を法的に整理する作業の重要性は変わりません。
スマホで遺言が作れる時代だからこそ、「簡単に作れる」ことと「適切な内容である」ことは別である点をぜひ意識していただきたいと思います。
遺言作成をお考えの方は、法改正により新制度が施行され得ること踏まえつつ、早めに弁護士へご相談されることをおすすめします。




